2018年9月25日火曜日

白頭山と漢拏山の「血の秘密」 黒田勝弘

文大統領の支持率がまた70%を超えたらしいが、今米国にいるけど
米朝会談二回目があろうと、北朝鮮が核廃棄の行動に移らないと、
以後は何も変わらない。
すべては北朝鮮次第、おそらく何も変わらないだろう。

白頭山と漢拏山の「血の秘密」 黒田勝弘

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夫人を伴い、白頭山を訪れた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長
(左から2人目)と韓国の文在寅大統領(同3人目)=20日
(平壌写真共同取材団)

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今回の平壌訪問の際、
かねての願いだったという朝中国境の白頭山(ペクトゥサン)を
訪れいたく感激していた。
この山は朝鮮民族の建国神話にかかわる“聖地”とされ、頂上に
火口湖である神秘的な「天池」があって実に絶景である。
筆者は過去3回、中国側から訪れているが、麓は広大な森林地帯で
これも素晴らしい景観である。

金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の
祖父・金日成(イルソン)主席はこの一帯で抗日運動を展開したと
いうが、実際は中国共産党指揮下にいたから活動舞台は主に中国側の
旧満州だった。その証拠に、彼をたたえる『金日成将軍の歌』に
出てくる山は「白頭山」ではなく中国名の「長白山」になっている。

金日成主席の息子で金正恩氏の父・金正日(ジョンイル)総書記は
1942年、白頭山で生まれたことになっているが、実際は金主席は
当時、ソ連(ロシア)領に逃避しソ連軍指揮下にいたため
ロシア生まれだ。

しかし金日成一族は自らの権力の正統性を飾るため「民族の聖地」であ

る白頭山とのゆかりを虚構混じりで強調してきた。
世襲3代目の金正恩氏も金正日総書記の息子だから
「白頭山の血統」を受け継いだことになっている。

ところで文在寅氏は金正恩氏の案内で白頭山を訪れ、韓国から
持ってきたという韓国南端・済州島(チェジュド)の
漢拏山(ハルラサン)の水を、民族融和の意味で白頭山の「天池」の
水に注ぐパフォーマンスをやってみせた。
金氏は今回、「早い時期のソウル訪問」を約束したことから、文氏を
はじめ韓国側ではソウル訪問に合わせ済州島訪問に期待が高まっている



金正恩氏のソウル訪問が実現すれば、南北融和・平和共存の
象徴として画期的なことになるが、済州島訪問は彼にとっては
きわめて微妙な問題を含んでいる。
母・高英姫(コ・ヨンヒ)が日本生まれの在日出身で、母方の祖父は
済州島出身だからだ。
金氏にはその血が流れているのだが、そのことは北では
秘密になっている。

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こうした“血統の秘密”から日本や韓国の親北朝鮮派の間では
「朝鮮半島北端の白頭山と南端の漢拏山の血を受け継いだ
金正恩氏こそ来るべき統一コリアの指導者にふさわしい」などと
いった“ヨイショ話”が語られてきた。

金正恩氏のソウル訪問となると、母親の出自を含め彼の
「南の血筋」が話題になるだろう。
金氏にとってソウル訪問のリスクは、最大の懸念である
「身辺の安全」もさることながら、その「血統のナゾ」を北の国民に
向けどうクリアするかだ。
リスクがあっても漢拏山に登ることで韓国をさらに取り込もうと
するのかもしれないが、そこまでやれれば金氏の変化の意思は
かなり本気ということになるだろう。

文在寅氏にとって今回の平壌訪問の最大の皮肉は、韓国であれだけ
民主化や人権を語り、軍事政権や独裁政権と闘い大統領の座に
上りつめた彼が、自らの政治的看板とは真逆の国で真逆の指導者と
抱き合い、信頼や友好・協力を繰り返し語ったことだ。
文氏をはじめ韓国はこの“つじつま”を今後、どう合わせるのだろう。

韓国は「戦後世界で経済発展と民主化を同時に実現させた
希有(けう)の国」を内外に誇ってきた。
次は東西冷戦後世界に残された最後の分断国家状況の解消と、希代の
全体主義国家・北朝鮮の民主化という世界史的(!)課題を
背負っている。これは隣国としても見モノである。
(ソウル駐在客員論説委員)

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